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「得意」を地域の力に 山形新聞 ー提言ー

山新 提言

以下に全文掲載いたします。2018年3月23日山形新聞「提言」

『ナリワイづくりは、つながりづくり、地域づくり』

鶴岡ナリワイプロジェクト 代表 井東敬子

あなたの「生業(なりわい)」は何ですか? ここ数年、片仮名の「ナリワイ」という言葉が、若い世代を中心に使われるようになりました。「生業」は通常、「生計の元手を得るための職業」を意味しますが、「ナリワイをつくる-人生を盗まれない働き方」(東京書籍、2012年)の著者である伊藤洋志氏は、あえて片仮名で「ナリワイ」とし、「生活の中から仕事を生み出し、複数の仕事で生計を立てる」という意味で使い始めました。

鶴岡ナリワイプロジェクトは、そんな〝プチ起業〟を応援する講座を主催しています。私たちは、ナリワイを「自分が好きなことや得意なことを生かし、身近な人や地域のちょっとした困りごとを解決する小さなソーシャルビジネス」と位置づけています。一カ所から収入を得るのではなく、ナリワイとアルバイトなど複数の仕事を掛け合わせて働くという考え方です。地域には子育てや介護、健康上の理由から、フルタイムでは働けないが、自分の力を誰かのために役立てたいという人もいます。ナリワイはそんな人も肩肘張らずにできる働き方です。

プロジェクトを始めたきっかけは、私が鶴岡食文化産業創造センターのアドバイザーを務めていたころ、偶然目に留まった「月3万円ビジネス」(藤村靖之著、晶文社、11年)という本でした。著者は起業する人が少ないのはリスクが高いからと考え、借金せず、月3万円(年36万円)の利益をめざそうと提案しています。私たちは13年から方策などを模索し、14年に公益財団法人トヨタ財団の助成を受け、15年にプロジェクトをスタートしました。

現在までナリワイ起業講座の卒業生は約50人、公開講座は延べ千人の参加がありました。昨年には起業講座を卒業した十数人がナリワイALLIANCE(アライアンス=同盟)を立ち上げ、学び合いながらナリワイを続けています。鶴岡市も移住定住を促進する活動として、設立当初から支援してくれています。

ナリワイ起業講座受講生の9割は30~40代の女性で、そのうち半数がUIターン者です。中には国際宇宙ステーションの管制官。ジュエリーデザイナー、スタイリストなど珍しい職歴の人もいます。そうした人たちが地域で活躍できるよう、地元在住者が接着剤になっています。昨年は子どもたちに地方で接することが少ない多様な職業に触れてもらおうと、初めて「小さなおしごと見本市」を開催しました。こうした小さなチャレンジも続けています。

受講生からは「自分の中の原石に気づいた」「人生に希望が持てた」という声が聞かれます。経済効果は小さいですが、地域にとって一番の価値は、これまでサービスを受ける側だった人が、地域の課題を解決する側に回ったことでしょう。地域には能力やスキルのある人はいます。ただ、手をあげるチャンスと支え合える仲間に出会えていないのです。やりたいことを口にでき、応援し合える仲間がいると実感できる場があることで、人は可能性を発揮できると、この5年で実感しました。ナリワイづくりは市民から始まる地域づくりです。あなたの町でもナリワイを始めませんか。(鶴岡市在住)


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