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<レポート>小さな森の市&ナリワイ市 2018.7.1開催(後編)

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ブースに並ぶ色とりどりに可愛い布ナプキンで、より女性に特化した心身の健康にアプローチしているのは、ルナリズムの諏訪部夕子さんだ。「女性は自分の月経周期を理解し、そのリズムに乗って過ごせば、無理なく自分の身体を大事にしながら暮らすことができるのです。布ナプキンはそのことを伝えるひとつの手段で、大切な入り口です」。
そう話す諏訪部さんは以前サロンに勤め、フリーランスになった2013年にナリワイプロジェクトの前身である「ナリワイづくり工房@鶴岡」に参加した。その時に、女性の心身と月経周期の深いつながりに着眼。以来、自身のリラクゼーションサロンを営みながら、布ナプキンの販売とワークショップを通して、女性の心と体にやさしいライフスタイルの提案を行っている。「仲間に支えられながら何とか続けてこられました。今回のイベントは来客数が多すぎて、じっくりワークショップをという感じにはなれていませんが、布ナプキンに興味を持ってくれる人が多いので嬉しいです」。

 

 

 

お子さんの食物アレルギーを機に、手作りのおやつから食と健康にアプローチしている人もいる。2016年に鶴岡へUターンし、今年春にナリワイ講座に参加したばかりの秋田皆子さんだ。今回は卒業イベントとしての出店だが、実は秋田さん、すでにオリジナルスコーン専門店「shonai scone」を起業している。店舗を持たずに委託販売や受注販売、イベント販売をするスタイルだ。「スコーンに特化した起業なんか失敗すると皆に反対されたのですが、誰もやっていないからこそ挑戦してみたいと思って」。オリジナルスコーンはアレルギー対応というだけでなく、庄内の食材にもこだわって作られている。庄内産の大吟醸酒粕を使用した生地に庄内郷土料理の「しょうゆの実」を練りこんだ「しょうゆの実スコーン」は人気の看板メニューだ。「息子のようなアレルギーを持つ子どもが安心して口にできて、なおかつ純粋においしいと言ってもらえるスコーンをこれからも作りたいですね」。

 

 

 

命を支える食を大切にしたい。その観点から代々受け継がれてきた実家の農業に挑み始めた人もいる。「すくすくやさい畑」の屋号で米やだだちゃ豆の栽培をしている山崎恵美さんだ。農業とはまったく関係のないキャリアを積んできた山崎さんは、2014年、実家の農業を手伝うために家族3人で鶴岡市藤沢地区に移住した。長女を出産し、育児をするかたわらで親の仕事を手伝い、2016年度にナリワイへ。今回は庄内協同ファームと共同で、自身が育てた農産物やナリワイに参加してから作り始めただだちゃ豆クッキーなどを販売していた。まだ農業に対しては初心者で、両親とは違う農のあり方を模索中とのことだが、同じような年代の農業者とのネットワークが徐々につながり始めているという。彼女のような新規就農者が庄内の農業を支えていく。
ナリワイ活動を通して、新たな世界に挑戦し始めた人には、しな糸でしおりを作るワークショップを開催していた「かつての暮らし」のつづりかた蕗さんもいる。埼玉県出身の蕗さんが地域おこし協力隊として山形県朝日町に移住したのは2013年。ナリワイには2015年に参加し、2016年に鶴岡へ移住。庄内里山自主保育の会の発足やライティング活動などを行いながら、山仕事を覚えてきた。「最初は山仕事をナリワイにしたくて、山の人について行って山菜やきのこを採って、販売していたのです。でも次第にわら細工などの手仕事に興味を持つようになって」。だが、地元でわら細工文化を継承している人の元へ学びに通う過程で、伝統工芸の継承にはコミュニティの課題などさまざまな厳しい現実があることを痛感した。そして昨年、思いきって新潟県村上市の企業組合の研修生に。1年間現地に暮らしながらしな織り技術を身につけた。しな織りは山形の関川も新潟も、地域ぐるみで残そうという体制ができている。自分らしいナリワイを模索し続け、前進し続けてきた蕗さんが今後このナリワイをどのように発展させるのか、注目したい。
一方、自らのキャリアと専門スキルを活かしてナリワイに挑む人たちもいる。「花のアトリエ チョコレートコスモス」の齋藤智子さんは、ルナリズムの諏訪部さん同様、2014年の「ナリワイづくり工房@鶴岡」参加者だ。以来、長く花屋で働いていた経験をもとに、身近に咲く野花を使ったオリジナルリースづくりなどを行なっている。「もともと自然の中に咲く野の花の方が好きだったのです。野花だけでなく、剪定された枝や摘果された果実など、捨てられてしまうような草花でも、ひと手間かければ息が吹き込まれて、生活の潤いになりますから」と斎藤さん。今日は自然がいっぱいの場所で出店できて幸せだと話す。
国際宇宙ステーションの実験運用管制官として働いていた佐藤涼子さんは、今回、手作りのプラネタリウムで、会場内に小さなプライベート宇宙空間をつくった。子どもたちが入れ替わり立ち替わり中に入り、歓声をあげている。「宇宙って138億年の歴史があるんです。それに比べて人間の人生って長くて100年。宇宙からみればほんの一瞬です。だから宇宙をみて、日々の悩みや苦しみの小ささに気づいてほしいですね」。そう話す佐藤さんがご主人の実家がある鶴岡に東京から移住したのは2016年。すぐにナリワイに参加し、仲間づくりに励んだ。その中で、大好きな宇宙のことがナリワイにできるのではと考えるようになり、宇宙ステーションの観測会や講演会などの活動を開始。まだ始めたばかりだが、「宇宙を知ることで、地球に住むひと全員が平和に暮らす世の中になってほしい」との思いを胸に、今後も宇宙の魅力を多くの人に伝えていきたいという。
ちなみに、今回のジョイントイベントは、佐藤さんと小さな森の市代表の秋野わかなさんが同じ加茂地区に住んでいたことから始まった。
最後に紹介するのは、スタイリストの鈴木順子さんによる「小さなおしゃれ相談室」である。今回、「スタイリストのひとりフリーマーケット」として出店するとともに、「おしゃれのお悩み5minアドバイス」ワークショップを開催。鈴木さんは東京で約30年間、『Olive』や『an・an』などの女性誌で、ファッションやインテリアなどライフスタイル全般をスタイリングする仕事をしてきた。それだけにとどまらず、衣装を自らデザインして作れることからドレスメーカーとしての仕事も任され、小泉今日子やYUKIなどアーティストの衣装制作も担当した。つまり、超がつくほどのこの道のプロフェッショナルなのである。そんな鈴木さんが、海をみながら穏やかに暮らしたいと鶴岡に移住したのは2013年。そして2016年にナリワイに参加したことで、自分のスキルを生かしたナリワイの方法を再認識することとなり、今年3月からの仕事始動に至ったという。地方ではまだまだ「スタイリスト」がめずらしい時代。「あなたの町のpersonal stylist」として動き始めた鈴木さんが、どのような風を庄内に運んでくれるのか、楽しみだ。
以上、ブース出店した鶴岡ナリワイプロジェクト修了生、ナリワイALLIANCEのメンバーそれぞれの活動とブースを紹介した。だが前述したように今回のジョイント市には、6月に工房いずみのにオープンしたばかりの「ovenKato」をはじめ、「おむすび大地」、「プティオアゾ」「酒田あいおい工藤美術館」など、さまざまなブースがあった。
また来場した人々も熱心に商品を手にとり、出店者との会話を楽しんでいた。その数450名という。そうした「羽黒・芸術の森」にできた1日だけのマーケット空間に集う人々の姿を見ていると、かつて故今井繁三郎氏が自ら山林を開墾して誕生したこの「芸術の森」は、時を経て新たな「芸術と交流の森」となって再生したようにと思う。
そして、もうひとつ忘れてならないのが、今回の運営を陰で支えたナリワイ・イベント実行委員会の存在である。彼ら・彼女たちは炎天下の中、駐車場誘導をし、イベントが滞りなく進むように駆け回っていた。こうしたメンバーの献身的な姿勢が、一人一人の個性を尊重しながら助け合って前進するというナリワイコミュニティをつくり、支えているのだと感じた。この輪がもっともっと広がっていけば、庄内はきっと個人を大切にしながらも温かなつながりに満ちた地域になるのではないだろうか。
文:長谷川結
写真:佐藤弘明

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