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2015年度鶴岡ナリワイプロジェクトレポート(広石拓司氏より)

株式会社エンパブリック代表の広石拓司さんより、2015年度の鶴岡ナリワイプロジェクトをふり返り、レポートにまとめていただきました。

地域発の仕事づくり、コミュニティづくりのモデルとして見た
鶴岡ナリワイプロジェクトの意義と今後について

 広石拓司  株式会社エンパブリック代表

鶴岡ナリワイプロジェクトは、グループでワークショップを重ねながら地域の仕事づくりを行っていく取り組みであり、これは地域の仕事づくりの方法論としてユニークなものです。従来の仕事づくりの方法は、コミュニティビジネス講座のように講座を行うもの、動き始めた人を創業支援施設が個別に応援するものが多く行われてきました。その場合、前者はプランを作っても実際のアクションにつながりにくい、後者は個々には成長しても広がりが持ちづらい傾向がありました。それに対して、鶴岡ナリワイプロジェクトでは、鶴岡市という従来女性の起業が盛んではなかったところで、昨年今年の2年間で18名、実際に事業を小規模でも始める・始めたばかりの人が集まり、グループとして活動をしたのは、他地域にとって示唆に富むものです。

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 1.鶴岡ナリワイプロジェクトのモデル性の高いところ

本プロジェクトの特徴は下記のような点にあると考えられます。

 地域の女性の新しい仕事観、生き方を提示している

本プロジェクトの核は「自分から動いて仕事をつくる」にあります。仕事というと、会社勤めやパートで内容や条件などが決まっていると考えがちです。しかし、それだけでなく、「自分で何を行うのか、何を大切にするか、価格はどうするかなどを決め、自分の目指す姿と努力次第で収入をつくることができる仕事」「最初は小さくても仕事を自分でつくっていくことができる」という仕事観を、実践を通して広げています。これは、仕事観だけでなく、地域で生きる人が環境に対応するだけでなく、自分の社会の中での役割を自ら設定していく主体性の大切さを、地域の人たちが思い起こしていく役割を果たしています。

 当初から群として育成を行っている

本プロジェクトは、起業する人を個別にではなく、群れとして育つようにしています。起業など個人で新しいことを始める場合、孤独になりがちなところを、自分と同じステージで他にも頑張っている人がいることをお互いがしっかり見えるようにグループ化し、エンパワーしています。同時に、ナリワイという個々の小規模な取り組みを群とすることで、イレギュラーな動きではなく、新しいムーブメントが起きていると参加者外の地域の人たちに伝えることができています。

小規模な売上をゴールとして設定して敷居を下げ、多数の成功者をつくる

仕事づくりと聞くと、それで食べていけるのかという質問が多く出ます。また、一般企業の月収くらいの収入がなければいけないと考えてしまいがちです。しかし、本プロジェクトは「月3万円程度の収入を得るナリワイ」をゴールとして設定しています。それは、「それならできそう」というハードルを下げる意義に加え、「実際にゴールに到達した人」を短期間で多数生み出す意義があります。計画時は、大きなゴールが意義あるように思いますが、達成する人がとても限られていると、「私には無理かな」と思う人がいますが、成功者が多くなることで周りをエンパワーできます。

安心してトライできる=失敗できる環境を整えている

地域で新しいことを始めにくいのは、失敗することはリスクが大きいと考える人が多いからです。それに対して、本プロジェクトは、失敗してもいいから、積極的にトライすることを推奨しています。「最初からうまくいく人はいない」「失敗から学んで次を工夫すれば、失敗ではなく学びのプロセスだ」という考え方はわかっていても、特に地域の周りの目がある中では行いづらいものところを、「今はナリワイプロジェクトをしているところだから」と自分にも周りにも納得できるような場を提供しています。

仲間で体験を共有し、お互いからの学びあいを大切にしている

従来の起業支援では、相談や指導を行うインキュベーションマネージャーがいて、その人が導く方法が多くあります。しかし、本プロジェクトは、試行した経験を分かち合い、共に学びあうことを大切にしています。経験からの学びの効果的な方法を、地域の人たちが身に着ければ、地域に仕事づくりを広げていくことができます。

 意欲的なUIターン女性にとっての地域の居場所の役割を果たしている

本プロジェクトはワークショップを通して、仕事や成長、自分の生き方、地域との関係づくりといったことについて話し合い、それが仲間づくりになっています。それは地域女性にとってはもちろん、特に、UIターンをしてきて、すぐに地域になじめない人にとって貴重な居場所となっています。しかも、閉じたコミュニティではなく、仕事を通して、徐々に地域の人とつながっていくことができるので、UIターン者が地域と関係をつくるプラットフォームの役割も果たしています。

 ナリワイが、外部の地域内外の人のネットワークの拠点となっている

地域での仕事づくりの意義は、経済的な側面だけでなく、仕事を成功させるために内外の人たちとのつながりが生まれるという社会的な側面もあります。実際にナリワイを通して、地域内でのつながりや都市部とのつながりも生まれています。それは、地域外から見たときに、どこにコンタクトをしたらいいか、接点が見えやすくなるという機能を果たしています。

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2.今後に向けて充実していくとよい点

鶴岡ナリワイプロジェクトは成果を出してきている取り組みですが、上記の意義のある機会を多くの市民に提供し、そこから地域の仕事が発展するために、下記のような取り組みを充実するといいでしょう。

 ナリワイのグループとしての付加価値づくり(クラスターデザイン)

小さな仕事がグループとしてある意義は、励ましあい、群として存在感を出すだけでなく、仕事と仕事が連携することで個々では生み出せない新しい付加価値を生み出せることにもあります。また、仕事が集積することで、新しい需要の発掘、個々の事業展開を支えるネットワーク、既存地域団体や地域外企業、大学などとの連携、PRイベントなども行いやすくなります。そのような「鶴岡ナリワイ・クラスター」としての付加価値を生み出す取り組みが充実することは、個々のナリワイにとっては機会を広げ、価格をあげる取り組みにつながり、地域にとってはイノベーションを生み出す拠点としての価値が高まることになります。

 ノウハウを蓄積していく器としての事務局機能の強化

鶴岡ナリワイプロジェクト自体が先ず試してみることから始まりました。だからこそ地域に根付いた独自の方法論を生み出すことができています。ここで生まれた広報、相談、ワークショップ運営、ネットワークづくりなどの方法とノウハウを、仕組み化し、地域での継続的な運営のための事務局機能を充実していく必要があります。

 起業を考える人の多様な受け皿との連携、受け皿つくりへの関与

ナリワイは「住民の主体的な動きの小さな成功体験」を地域にたくさん生み出すことをゴールと設定している点に価値があります。ただし、起業の目的、ビジネス構築の方法は多様であり、すべてをナリワイプロジェクトに期待することはできないですし、効率も良くありません。地域の多様な起業を支える仕組みを、既存施策や制度との連携、共同開発によって推進していくことが大切です。同時に、既存の取り組みとの役割分担と連携によって、ナリワイの担い手の仕事の応援メニューを広げることができるでしょう。

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鶴岡ナリワイプロジェクトは、経験値が蓄積してきた段階です。この経験を地域に根付かせ、他地域に広げるように仕組みとして展開することが期待されますし、そこには地域内発の地方創世の大きな可能性があります。


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