2015年度からいくつもの仕事を組み合わせて暮らしはじめたという稲田瑛乃さんの後篇です。
(前編はこちら)
工房げるぐどについて
工房げるぐどを立ち上げたのは、大学院を卒業した2010年。庄内のステキなところを、自分らしく伝えていきたい、まずは自分で何をやっているのかはっきりさせたいという気持ちから、名前を付けて動いてみることにしました。とはいっても、最初は名前だけで、誰に頼まれるでもなく、自分の作りたいものを作り、描きたいものを描くことを中心に活動していました。しかしながら不思議と、名乗るだけで覚悟が生まれたのか、目につくことが多くなったのか、人から頼まれて絵を描いたりモノづくりをすることが少しづつ増えてきたのです。「名乗る事って、自分に責任を持つことなんですね、外からの見え方を気にするようになったように思います。」
「≪げるぐど≫って庄内弁なんですけど、一部でしか使わないらしくて、わからない人も多いところが気に入ってるんです。意味は、おたまじゃくし。足のはえたのが特にそう言うみたい。私にとって「一部にしかわからない」「足はあるけど大人じゃない」というところがポイントかもしれないです。そういうスタンスが好き。」そう言われてみると、瑛乃さんの活動の様子と意味合いがリンクしているようにも思えてきます。
自分で実際にナリワイをしてみて思ったこと。する側になって思ったこと。
いわゆる一般的な企業に就職し働くという経験が今までない、という瑛乃さん。リクルートスーツを着て、ネットでエントリーし、企業面接会に行く、そんな仕事って、どういうものなのかよくわからなかったので、やる気にもならなかったそうです。話を聞いていると、はっきりと見えているもの・ことや、芯の通った存在に対してではないと自身もまっすぐ向き合えないのではないか、という考えが瑛乃さんの中にはあるように思えます。自身も一般的な企業への就職は向いていないと分かっていたので、他の方法を探し出していくしかなかった、と話します。
家族形態で100%性格が分けられるとは思わないけれど、わたしは一人っ子で頼るのが苦ではないという部分があって、集団で仕事をすると、つい人に頼って、どこか気持ちが入らない所があったり、そのせいで迷惑かけることが出てきてしまって、それがなんとなく嫌なところなんです。だけど、頼ることも大事。バランスですね、と自身を分析します。
仕事に対するポリシーは?
瑛乃さんは、地方で働くことについても考えがあるといいます。庄内の自然や四季の移ろいが本当に好きだといつも言っている瑛乃さん。そこが好きだから庄内に住んでいるにもかかわらず、暮らしながら自然や四季に真っ向から触れ合いたいのに、時間で決められた仕事の制約でその時間が減ることが、なんだか変だな、と思った。それなら都会に行って同等の仕事量でもっとお金がたくさんもらえるところに入るほうがいいに決まってる。私が優先しているのは、この場所で自然と四季の移ろいに出会うところで、ここに住むのもその大きい意味を達成しないと意味がない。じゃあやっぱり普通の働き方ではない自分らしい方法をみつけないと、という考えに至ったのだそう。
3月までは毎月月給が出る仕事をしていたので、4月から数えて約半年、色々と不安もある中、模索をしながら、暮らし・仕事・人生について考えているという。「人間は大体80歳くらいまで生きると考えると、私はあと50年。もうすでに30年。面白い30年だったと思います。これからもできるだけ自分らしく面白く、たくさんの人と出会いながら気持ちよく生きていきたいんです。人生は実験だと思っていて、いろいろ試してうまくいったところをまたやってみて、もっとより良くなるようにやってく、そんな風にできたらなって思ってるんですよ。」
現在やっている仕事の内容は?
今、いくつかの仕事を並行してやっている瑛乃さん。工房げるぐどは、個人的に頼まれた木工品や手描き看板、チラシやイラストを描いたり、料理、ワークショップ開催、写真、文章など創作活動を主にしています。それ以外に、大江町にある林業関連の事業所が主体となってやっているSo-ten nenでは森や木と関わることで、生活や心が豊かになるような提案ができたら、と活動しています。鶴岡ナリワイプロジェクトでは、広報や講座のスタッフとして参加しながら、自分のナリワイづくりのアイディアを育てているそう。ほかにも、コーヒー販売やイベントの手伝いをしています。そして、今年の春から鶴岡市内のこけし職人に弟子入りして週に1回通っているのだそうです。また7月には林業女子会@山形を立ち上げ、山形県内で林業や森に興味のある女性のネットワークになればと月1回程度のフィールドワークを開催しているとのこと。瑛乃さんは様々な活動をしているので、最近は仕事は何をしているのか聞かれるけれど、何とも答えずらい、と言っています。
少しお話を聞いただけでも、瑛乃さんがナリワイのいくつかの仕事を組み合わせながら、好きなことと地域にいいことで無理なく稼ぐ、を実践している様子を垣間見たような気がします。
今後どのようにしていきたいか。
最終的にやりたいと思っているのは、暮らしながらいろいろな人が訪れてくれる場所づくりだと瑛乃さんはいいます。
「暮らしを実感できる場って少ないと思うんですよ、だから、博物館みたいに展示しているんじゃなくて、実際使ってる様子を共有できる場があれば、素敵だな、と思うのです。」
瑛乃さんは、多様な価値観を持った人が集まる場が好きだと言っています。音楽活動も生活の中で大きなウェイトを占めているので、交友関係は多岐にわたります。「人に頼る事って、悪い事じゃない。一方的に頼ることはよくないと思うけれど、人は互いに不足分を補いあって生きていくものだから、いざというときに頼れる仲間がたくさんいたらとても生きやすいと思います。ただ、私はまだうまく回せなくてかなり人に迷惑をかけているので、もっとうまいことできるようになりたいです。仕事は頼り過ぎず、生き方は頼って。」と笑います。山や森に行くのが好きだという瑛乃さん。自然界の輪の中に、ヒトも存在していて、バランスをとっている、ヒトの世界、自然の世界、地球の中で、自身の役割は何なのかを考えることにしていると言います。
「ナリワイづくり」をしてみようという人へのメッセージ
「ナリワイづくりは、自分のいる世界の中での役割探しだと思います。それぞれに役割があって、得意不得意がある。互いに分かり合って、協力し合う。そういう人が増えたら面白い世界になると思います。焦らないでいろいろ試しながら役割を探してみたらいいんじゃないかな。自分をみつめて、自分を分析して、掘り下げて、少し遠くから見られたら何か見えてくるかもしれない、私はそう思うようにしています。」
自分のやりたいこと、できることをじっくり見極め、それを一つ一つ組み合わせて暮らす瑛乃さんは、庄内で一番「ナリワイ」を実践している人のひとりのように思いました。
ナリワイ女性インタビュー№6 稲田瑛乃さん
兵庫県神戸市出身 29歳 シェアハウスで3~4人と同居
仕事:鶴岡ナリワイプロジェクト事務局、So-ten nen(大江町)、工房げるぐと(クリエーター)、そのほかライターやアシスタントなどを兼業
工房げるぐど http://fulufo.tumblr.com/
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